前回に続いてプロジェクト企画の提案書の承認を得る前の情報収集です。アンケートでは、社内の意見を平等に聞くことができます。また、社外での展示会では、質問の仕方で他社の製品情報を得ることができるのです。
■アンケートで黙るうるさい幹部たち
問題点について、客観的な事実を述べて説明をしたり、ある問題点を時間換算して、どのくらいのロス金額が出ているのかを説明しても、論点とは外れた細かいことをいろいろと言ってくる上層部の方々もいます。心理的には、自分を除け者にせずに、大事に扱って欲しいという感情からでしょうが、いちいち言ってくると、分析やヒアリング活動に支障が出てきます。
違う言い方をすれば、システム導入に関して大変関心をしてもらっているので、ありがたい話ではあるのですが、間違った方向へ導いてしまうことがあります。特に、プロジェクトの若手メンバーに対し、「私は、あそこは具体的にこうするべきだ」とか、「こういった機能が最優先だ」と言ってきます。情報システム部の若手社員は、なかなか反論ができないので、その要望をそのまま課題リストへ入れてきます。
リーダーとしては、課題リストにあがったリクエストが本当に必要かどうか、客観的な事実が欲しいものです。こうしたリクエストの客観性を見るための1つの有効な方法として、アンケートを利用することがあります。
私も実際、システム導入の際に、営業のある部長さんが非常に細かいことをプロジェクトメンバーの若手に対して威圧的に言ってきました。若手メンバーに聞くと、やはり上層部の方で、一方的に話をされると、なかなか反論できませんし、どうしても受け入れざるを得ないとのことでした。
そこで、私が取った方法として、全社的にアンケートを実施しました。あるテーマのシステム導入に関して、どういったところに困っていて、どういった機能がいちばん欲しいのかを自由に記入してもらう形でアンケートを取りました。
すると、おおよそ予想していた通りの意見が出てきました。それらの意見を統計的にグラフなどで意見したユーザー数を入れてプレゼンテーションをすることによって、これまで非常に細かいことを口うるさく言っていた方々が、急に静かになりました。
■アンケートで声を上げる沈黙者たち
アンケートをとって気がついた事は、黙々とシステムを使っているユーザの方々で、普段から情報システムに対してのリクエストもなく、我慢強く使っていたのか、この機会に一気に多くのリクエストを書いてくるユーザーが何人もいました。その中には、これまで表には出てこなかった問題も数多くあり、大変参考になりました。
アンケートは、いつも沈黙しているユーザーたちに対して、意見を述べる機会を与える意味で非常に有効だと思います。そしてそれらの意見は、口うるさく言う人の意見も、沈黙を保っている人の意見も、同じ重みで集計されて報告されるのですから、客観性を得ることができるのです。
こうしたユーザーに対するアンケートは、システム導入後にも有効です。導入後に、情報システム部門に対して「使いにくい」とか「想像していたのと違う」と直接、苦情を言ってくる人たちもいますが、アンケートでは、苦情も言わずに我慢して使っている人たちの声も聞くことができます。
また、アンケートでは、テーマ以外にも「自由意見欄」を設けることで、現場の担当者がネットワークやハードウエアなどで困ってることも聞くことができました。アンケートの質問数は多くすると回答が面倒になりますので、出来る限り質問数は減らして、むしろ、自由意見欄を設けて書いてもらうと良いと思います。
大切なことはその後、それらの意見を「意見リスト」としてリスト化をします。どこの部門の、誰が、どの分野について意見を言っているか、といったことをリストにし、意見を層別して、統計的にどの機能についてのリクエストが多いかを見ることができます。
また、「誰が言っているのか」も注意することです。コメントで表されている以上の問題が裏側にある場合もあり、直接販売につながることもあります。
例えば、私の経験ですが、ある優秀なベテラン販売員のコメントで、「ロイヤリティ会員のお客様の検索を会員番号ではなく、携帯電話番号でできないか」というものがありました。お客様は、自分の会員番号は覚えていませんし、会員カードを忘れた時に、ポイントや購買履歴を検索できないのです。確かにそのとおりで、他の販売員にもヒアリングをかけて、同様の意見でしたので、スクラッチで改修アプリを開発して店舗に導入しました。その後、CRMを再構築する時には、会員番号でも会員を検索できますが、携帯電話番号でも検索できるようにしました。
ぜひ、公平なユーザの意見を聞くために、また、自分たちが気が付かない現場の意見を聞く機会として、ぜひアンケートを活用ください。
■展示会やベンダーから情報を仕入れる
ベンダーさんから他社の情報を仕入れる場合に、具体的な事例があれば、詳しく聞いてそれを参考としてプレゼンテーションをします。例えば、競合他社であるA社は、最新のCRMシステムで新しい顧客サービスをしているが、そのシステムはどういうものか、類似のシステムはどういうものか、といったことを具体的にプレゼンテーションします。
雑誌やネットにも導入事例は掲載されていますが、実際に取り扱っているベンダーさんに、 機密情報の範囲を超えないようにしながら直接アドバイスを受ける形で情報収集をすることです。
また、情報システム関連の展示会や ショールームなどを訪れて製品情報収集することも役に立ちます。他の会社での導入状況の情報や最新の機能を知ることができます。
展示会会場ではエンジニアの方もいらっしゃるので、詳しくその機能について話を聞き、その会社(A社)の製品情報を聞くついでに、気になる他社(B社)の製品についてどう思うのかを質問をするのです。すると、やはり、自社の製品を売り込みたい心理も働きますから、 B社製品のデメリットについて詳しく教えてもらえます。
逆に、B社の展示会場へ行き、今度は、A社の製品について同様にデメリットを聞くことができます。こうして、複数社の情報を得て、それらを一覧にまとめて参考情報として経営陣へ報告を行うことです。こうした実際の導入事例については、プロジェクトの企画の前段階で情報を流しておくと、実際にプロジェクト企画書をプレゼンテーションしたときに非常に通りやすくなります。